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皆さん、こんにちは。Fire Risk Management(ファイヤーリスクマネジメント)の松永浩行です。
「防災やBCP(事業継続計画)は、お金が出ていくだけ」——工場の経営者から、よくそう聞きます。でも、これは半分しか当たっていません。防災・BCPへの投資には、”返ってくる”入口がいくつもあるからです。今日は、査察で30年、備えのある工場と無い工場の差を見てきた立場から、防災・BCPで”得する”具体的な情報——補助金・金利優遇・取引条件を、経営の損得で整理します。
先に結論を言うと、返ってくる入口は大きく3つあります。①税制(特別償却)、②金利(低利融資)、③取引条件(受注を守る・取る)。 順に、具体的に見ていきます。いずれも入口の鍵になるのが、国の「事業継続力強化計画」の認定です。
事業継続力強化計画(中小企業等経営強化法にもとづき国が認定する制度)を取ると、中小企業防災・減災投資促進税制が使えます。認定計画にもとづいて取得した対象設備——耐震・制震・免震の装置、消防用設備、自家発電設備、データのバックアップ用サーバーなど——について、特別償却が認められます。
償却率は、2025年4月1日以後の取得で16%(それ以前の取得は18%)。制度の対象は、令和元年7月16日から令和9年(2027年)3月31日までに認定を受けた事業者、とされています(率・期限は制度改定で変わるため、その時点での確認が必要です)。
特別償却は、”税金が消える”わけではありません。早めに多く償却して、手元資金を厚くする仕組みです。設備投資の初年度に多く償却できれば、その年の課税所得を圧縮でき、キャッシュが早く戻る。防災設備を「どうせ買うなら、この認定を通してから」——それだけで、同じ投資の手残りが変わります。事業継続力強化計画そのものの中身は、工場の防災投資は「事業継続力強化計画」で軽くなるに詳しくまとめています。
資金を借りて防災設備を入れるなら、日本政策金融公庫の低利融資(社会環境対応施設整備資金/通称BCP融資)があります。事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、設備資金について、基準利率から0.9%引き下げた利率で借りられます。
対象になるのは、耐震のための設備、消防用の設備、データをバックアップするためのサーバー等。あわせて、信用保証協会の別枠保証などの後押しも用意されています。0.9%という差は小さく見えても、借入額が大きく、返済期間が長いほど、総額では大きく効いてきます(金利・条件は変わるため、実行時に必ず確認が必要です)。
3つ目は、税制でも金利でもない、”売り”の話です。近年、大手のサプライチェーンでは、取引先に対してBCPや防災体制の提出・説明を求める動きが広がっています。部材や部品を供給する工場は、「災害が起きても供給を止めないか」を問われるようになりました。
ここでBCPを出せない工場は、取引の候補から外れていく。逆に言えば、きちんと備えている工場は、それ自体が選ばれる理由になる。防災は、単なるコストではなく、受注を守り、取りにいくための”営業材料”にもなり得ます。ただし、この圧力は系列や業種で強弱があるので、まずは自社の主要取引先が実際に何を求めているかを確認するのが出発点です。
設備投資の王道であるものづくり補助金をはじめ、いくつかの補助金では、事業継続力強化計画の認定が加点(審査で有利になる要素)の対象とされてきました。補助金は「防災のためだけ」に出るものではありませんが、本業の設備投資で申請するときに、認定を持っていると通りやすくなる——これも見逃せない実利です。どの補助金で加点対象になるかは年度・公募回で変わるため、申請前に、その回の公募要領で必ず確認します。
税制・金利・取引条件のほかにも、細かな”得”があります。事業継続力強化計画の認定事業者には、損害保険料の割引を用意している保険会社があり、信用保証協会の別枠保証(通常の保証枠とは別に保証を受けられる)も活用できます。ひとつずつは小さくても、①〜③と積み上がると、投資に踏み切る後押しになります。
イメージをつかむために、ごく単純な試算をしてみます(あくまで目安です)。仮に、認定計画にもとづいて1,000万円の防災・減災設備(自家発電や耐震補強など)を導入したとします。特別償却16%なら、初年度に160万円を上乗せして償却できます。これはその年の課税所得をその分だけ圧縮し、手元に残るキャッシュを早める効果になります。さらに公庫のBCP融資で金利が0.9%低ければ、たとえば同額を長期で借りたときの利息負担も、期間を通じて相応に軽くなります。
「防災に1,000万円」と身構えるより、“税と金利で一部が返り、しかも受注も守れる1,000万円”と捉え直す。そうすると、同じ支出でも経営判断がしやすくなります(実際の効果は、利益の状況・借入条件・税率で変わるため、税理士等にご確認ください)。
「制度は分かったが、認定の手続きが大変そう」——よく言われます。ですが、事業継続力強化計画は、分厚いBCPをゼロから書き上げるものではなく、様式にそって「何を、どの順で守るか」を整理するもので、最初の一歩としては現実的です。むしろ、この整理を通じて、自社の弱点(止まると困る設備・工程・人員)が浮かび上がります。手続きそのものが、防災の棚卸しになる。 手間を”コスト”ではなく”点検の機会”と捉えると、取りかかりやすくなります。
ここまでを、経営の損得で締めます。防災・BCPをやらなければ、災害時に操業が止まり、売上・取引・信用を同時に失います(損失額は業種・規模で変わるので、あくまで試算・目安です)。一方、やれば——税制で手残りが増え、金利が下がり、受注を守れる。 同じお金を使うなら、”出ていくだけのコスト”にせず、”返ってくる投資”に変える。これが、防災を経営の武器にするということです。厳しい業種、止まると損の大きい工場ほど、この差は大きくなります。
まず、自社が事業継続力強化計画の認定対象か、そしてどの設備が税制・融資の対象になりそうかを棚卸しするところから始めてください。ここが分かると、「いくら返るか」が見えて、はじめて投資判断ができます。
制度の率・金利・期限は改定で変わります。最新は各機関でご確認ください。
※本記事は一般的な情報提供です。特別償却の率・対象・期限、融資の金利・条件、取引先の要求内容は、年度・制度改定・個別事情により異なります。税務の具体的な判断は税理士等の専門家に、制度の最新内容は所轄・各機関(中小企業庁・日本政策金融公庫等)にご確認ください。
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