防災は「結果」より考え方|トヨタの”なぜ5回”で真因にたどり着く

皆さん、こんにちは。Fire Risk Management(FRM)(ファイヤーリスクマネジメント)の松永浩行です。

先日、通っている経営大学院(MBA)の、前期の履修科目が終わりました。レポートに追われた日々でしたが、終わってみると、早いものです。今日は、学びながらあらためて強く感じたことを書きます。それは、「結果(解答)よりも、そこに至るまでの”考え方”のほうが、ずっと大事だ」ということ。そして、この考え方は、防災の現場とまっすぐつながっています。

目次

「なぜ」を5回——トヨタ生産方式の考え方

ものごとの”考え方”を語るとき、私がいつも思い出すのが、トヨタ生産方式の「なぜを5回繰り返す」という有名な話です。トヨタ生産方式を確立した大野耐一さんが、問題が起きたとき、「なぜ?」を重ねて、本当の原因(真因)にたどり着け、と説いたものです。

たとえば、機械が止まった。「なぜ止まった?」→ 過負荷でヒューズが切れた。「なぜ過負荷に?」→ 潤滑が足りなかった。「なぜ足りない?」→ ポンプが十分に汲み上げていない。「なぜ?」→ 軸が摩耗していた。「なぜ摩耗した?」→ ろ過器が付いておらず、切粉が入っていた。——ここまで来て、はじめて「ろ過器を付ける」という本当の対策にたどり着きます。表面だけ見て「ヒューズを替える」で終わっていたら、機械はまた止まります。

「5回」はあくまで目安です。3回で済むこともあれば、もっと要ることもある。大事なのは回数ではなく、“結果”の一つ手前にある”なぜ”を、掘り下げる姿勢そのものです。

防災でも、”結果”だけを真似ると失敗する

これは、防災でまったく同じことが言えます。

「消火器がある」「消防計画がある」「BCP(事業継続計画)を作った」——これらは、いわば”結果”です。ですが、「なぜ、それが必要なのか」という考え方が抜けたまま、形だけ整えても、いざというときには動きません。 ひな形を埋めただけの計画が本番で使えないのは、まさにこれです。結果(書類)はあるのに、そこに至る考え方(自社の現場で何が起きるか)が入っていないからです。

消防で現場を見てきて、いい備えをしている工場ほど、「なぜ、これをやっているのか」を、現場の人が自分の言葉で説明できました。逆に、危ない工場は「消防に言われたから」で止まっていた。この差が、本番で出ます。 考え方を持っている現場は、想定外のことが起きても、自分たちで判断して動けるからです。

事故やヒヤリの「真因」は、なぜを重ねないと見えない

「なぜを5回」は、事故やヒヤリ・ハットの再発防止でこそ、力を発揮します。

たとえば、避難通路に物が置かれていた。表面だけ見れば「片づけてください」で終わりです。でも、「なぜ置かれた?」→ 近くに置き場がない。「なぜ無い?」→ 生産量が増えたのに、保管の見直しをしていない。「なぜ見直していない?」→ 誰の担当か決まっていない。……と掘っていくと、本当の原因は”通路”ではなく、”レイアウトと運用の決め方”にあったと分かります。

ここを直さなければ、いくら片づけても、また同じ場所に物が戻ってきます。私が査察で「同じ工場が、毎回同じ指摘を受ける」のを何度も見たのは、たいてい、表面だけを直して、真因に手が付いていなかったからです。一つ手前、また一つ手前を問う。 これが、再発を止める、遠回りに見えて確実な道です。

「点」が「線」になるのは、考え方が身についたとき

もう一つ、学びながら強く感じたことがあります。個別の知識(点)は、そのままでは、別の場面で使えません。「なぜそうなるのか」という考え方が身について、はじめて、点と点が線でつながり、新しい状況にも応用できるようになります。

防災も同じです。ある工場で有効だった対策を、そのまま別の工場に貼りつけても、合いません。でも、「なぜ、その対策が要ったのか」という考え方をつかんでいれば、条件の違う現場でも応用が利く。以前に書いた「AIの出す答えを、そのまま使わず、一度疑う」という話も、根は同じです(AIで防災は”任せきり”にできない)。答え(結果)ではなく、そこに至る考え方を持っているか——ここが、本物の備えと、形だけの備えを分けます。

「なぜ」を掘るときの、3つの注意点

「なぜを5回」は、やり方を間違えると、かえって迷子になります。査察や現場で見てきて、大事だと思う注意点が3つあります。

  • 人を責めない。 「なぜ確認しなかったんだ」と個人を追い詰めると、原因は「担当者の不注意」で止まり、そこで思考が終わってしまいます。問うべきは人ではなく、”仕組み”です。「なぜ、確認しなくても先へ進めてしまう流れになっていたのか」。ここを問えば、その人が替わっても再発しない対策にたどり着きます。
  • 事実で問う。 推測で「なぜ」をつないでいくと、答えも空想になります。現場を見て、記録を見て、事実の上で、一段ずつ下りていく。私が防災の相談で必ず現場を歩くのも、これが理由です。
  • 筋がずれたら、出発点に戻る。 掘っているうちに、本題から外れることがあります。ときどき「この対策で、最初の問題は本当に消えるのか?」と立ち返る。これで迷子になりません。

この3つを守るだけで、「なぜを5回」は、精度の高い道具に変わります。逆に、人を責める道具に使うと、現場は「なぜ」を言わなくなり、真因は永遠に見えなくなります。

現場が”なぜ”を言えると、防災は自走する

考え方を大切にする理由は、もう一つあります。現場の一人ひとりが「なぜ、これをやるのか」を分かっていると、防災が”自走”するからです。

「消火器はここ」と場所だけ覚えている現場は、想定外のことが起きると止まります。でも、「なぜここに置くのか」「なぜこの順番で動くのか」を理解している現場は、指示を待たずに、自分で判断して動けます。だから私は、社員研修や訓練を、”手順を暗記させる場”ではなく、“なぜを共有する場”にすることをおすすめしています。手順は忘れても、考え方は残る。そして、考え方さえ残っていれば、手順はまた組み直せます。

これは、防災を特定の誰かの記憶に頼らない形にしていく、ということでもあります。人に紐づいた”手順”は、その人が辞めれば消えてしまう。けれど、みんなで共有された”考え方”は、組織に残ります。担当者が替わっても回る防災の、いちばんの土台は、この「なぜ」を言葉にしておくことなのです。

学びを、現場に返す

正直に言えば、レポートに追われるのは、なかなか大変でした。それでも学び続けるのは、学んだことを、そのまま事業にアウトプットできるからです。そして、相談してくださる方に、それをフィードバックできる。この環境は、本当にありがたいと思っています。

防災の相談を受けるとき、私は「正解」だけを渡したくはありません。「なぜ、そうするのか」という考え方ごと、お渡ししたい。 そのほうが、その会社の中にずっと残り、次の判断に生きるからです。結果ではなく、考え方を。これからも、そこを大事にしていきます。

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