危険物の流出は、消防だけの話では終わらない

皆さん、こんにちは。Fire Risk Managementの松永浩行です。

危険物の事故というと、多くの方が「火災」を思い浮かべます。燃えて、消して、終わり。ところが私が消防の現場で30年見てきて、いちばん後を引いたのは火事ではありませんでした。「流出」です。

燃えていないのに、会社が止まる。燃えていないのに、社名が世に出る。今日はその話をします。

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敷地から一歩出た瞬間、相手が変わる

油や溶剤が漏れる。それ自体は、正直、そう珍しいことではありません。配管の劣化、タンクまわりの腐食、バルブの操作ミス、荷卸し中の不注意。原因はどれも地味です。

問題は、その漏れたものがどこへ向かうかです。

敷地の中で受け止められていれば、話は比較的シンプルに収まります。ところが、漏れたものが側溝に入ると、そこから先は会社の手を離れます。側溝は雨水の排水につながっている。排水は川に出る。川は、海に出ます。

私の実感として、大きな事案になったケースは、ほとんどがこの経路でした。「工場の中の事故」だったものが、外に出た瞬間、まったく別の性質の事件に変わるんです。

窓口が、一気に増える

ここからが、経営者の方に本当に知っておいていただきたいところです。

工場の中で収まっている話なら、相手は消防です。ところが川や海に及ぶと、動く役所が一気に増えます。消防はもちろん、警察、都道府県や市の環境部局、海域に及べば海上保安、内容によっては保健所や下水道の所管。それぞれが、それぞれの根拠法令で動きます。

(どの機関にどんな報告や届出が要るかは、流出したものの種類・量・到達先によって変わります。水質に関わる法令や自治体の条例が絡むため、ここは断定できません。実際に起きたときは、所轄消防と各所管への確認が必須です。)

会社側から見ると、何が起きるか。「対応する相手が一つではない」という状態になります。求められる説明も、提出する資料も、来る時間帯も、機関ごとにバラバラです。工場長と総務が丸ごと張り付いて、それでも足りない。本業が完全に止まります。

そして、川や海に何かが流れれば、それは地域の目に触れます。報道されれば、社名が出ます。これは私の経験でも、はっきりそうでした。

設備の被害より、信用の傷のほうが長い

流出事故の費用を、経営者はつい「除去費用と修繕費」で見積もろうとします。実際には、そこはむしろ小さいほうです。

長く尾を引くのは、次の2つです。

ひとつは、操業の停止。ここが決定的です。危険物は「許可」で成り立っている分野です。行政が「使ってよい」と認めた前提が崩れたと判断されれば、使用の停止といった処分に踏み込まれ得る。届出で済むものとは重みがまったく違います。私の実感として、危険物は行政が処分に躊躇しにくい分野です。

止まれば、1日あたりの利益がまるごと消えます。それが数日か、数週間か。儲かっている工場ほど、その1日は高くつきます。

もうひとつは、信用です。報道が出れば、取引先から問い合わせが来ます。「御社は大丈夫か」「再発防止はどうなっているか」。大手のサプライチェーンに入っている工場なら、その説明責任はさらに重い。設備はお金をかければ元に戻りますが、一度ついた信用の傷は、そう簡単には戻りません。

金額は業種と規模でまったく変わるので、断定はしません。ただ、一度ご自身の会社で試算してみてください。「操業が10日止まったら、利益・人件費・復旧費・取引先への影響で、いくら失うか」。多くの経営者が、その額を見て黙り込まれます。

分かれ道は、事故の前にある

では、どう備えるか。

火事と違って、流出は「起きてから急いで消す」ができません。外に出たら、もう追いかけられない。だから、備えの中身がそのまま結果を分けます。

具体的には、こういうことです。自社の排水がどこを通ってどこに出るのか、図面ではなく実際に把握できているか。漏れたときに、どこで止められるのか。誰が、何分以内に、どこへ連絡するのか。増える窓口に、誰が対応するのか。

ここが決まっている会社と、決まっていない会社では、同じ量が漏れても、その後の数週間がまるで違います。私は現場で、その差を何度も見てきました。

そして、この「誰が・何を・どの順で」を紙に落としたものが、本来のBCP(事業継続計画)です。ひな形に流し込んだだけの分厚い計画では、この場面では役に立ちません。実際に事故がどう起こり、そのあと何が押し寄せてくるかを知っている人間が作らなければ、動く計画にはならないんです。

その投資は、軽くできます

最後に、経営判断としての話をひとつ。

こうした備えを「コスト」で見ると、どうしても後回しになります。ですが、国には「事業継続力強化計画」の認定という仕組みがあり、認定を受けると防災・減災設備の税制措置や、補助金審査での加点、融資面での優遇などにつながる道があります(制度の要件・数値・期限は変わり得るので、最新の内容は必ずご確認ください。申請先は行政です)。

つまり、備えにかけたお金の一部は、返ってくる可能性がある。「事故で失う額」と「備えにかかる実質の額」を並べて見ると、これは投資の話だと分かります。

Fire Risk Managementでは、かつて査察する側にいた視点で、御社の危険物が今どういう状態にあるのか、そして漏れたときに何がどこへ向かうのかを、一枚に整理するところからお手伝いしています。燃えていなくても会社は止まります。まずは現状の棚卸しから、ご一緒に始めませんか。

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