BCPが「使えない」で終わる理由|中身のある事業継続計画の見分け方

皆さん、こんにちは。Fire Risk Management(ファイヤーリスクマネジメント)の松永浩行です。

同じ100万円をかけて作ったBCP(事業継続計画)が、片方は「いざという時に会社を守る盾」になり、もう片方は「棚で眠るだけの紙くず」になる。私は、こう言い切ります。BCPは、金額では価値が決まりません。中身で決まります。

「BCPを作ったのに、意味がない気がする」「業者に頼んだが、分厚いだけで使える気がしない」——検索でこのページにたどり着いた方は、うっすらそう感じているのではないでしょうか。その直感は、正しいです。今日は、消防の予防査察を30年・5,000件超やってきた立場から、使えるBCPと使えないBCPが、どこで分かれるのかをお話しします。

目次

同じ100万円のBCPが、なぜ正反対の価値になるのか

まず、はっきりさせておきたいことがあります。BCPは「作った/作っていない」で語られがちですが、経営にとって本当に大事なのは、そこではありません。作ったBCPが、事故や災害の当日に動くかどうかです。

世の中には、ひな形(テンプレート)に会社名と数字を流し込んだだけのBCPが、たくさんあります。見た目は立派です。分厚く、目次があり、フローチャートも載っている。監査や取引先に「BCPはあります」と見せる分には、十分に通用してしまう。

ところが、いざ火災や設備事故が起きた時、その分厚い一冊を開く人はいません。開いても、そこに書いてあるのは「関係各所に連絡する」「安全を確保する」といった、当たり前すぎて何の指示にもならない言葉だからです。これが「紙くず」の正体です。同じ100万円でも、これでは会社を1円も守れません。

なぜ「もっともらしいBCP」は、当日に動かないのか

ここが今日の核心です。使えないBCPには、共通した生まれ方があります。現場で事故がどう起こるかを知らない人間が、机の上だけで作る——これです。

査察でいろいろな工場を見てきて、私が最初に見るのは、消火器の数でも、書類の有無でもありません。モノがどう置かれ、人がどう動くかです。危険物がどこに、どれだけ、どういう順で積まれているか。作業動線と避難動線が交差していないか。停電したら、どの設備が真っ先に止まるか。事故は、こうした「現場の具体」から起こります。

ところが、現場を知らずに作られたBCPは、この具体が丸ごと抜けています。だから、

  • 「初動対応チームを招集する」と書いてあるが、夜勤帯には誰もいないことが考慮されていない
  • 「代替生産に切り替える」と書いてあるが、その設備は特注で、代わりがないことに触れていない
  • 「重要業務を優先復旧する」と書いてあるが、何が重要業務なのかが自社で決まっていない

つまり、言葉は正しいのに、自社の現場に当てはめると、どれも実行できない。当日に開いても動かないのは、当然なのです。もっともらしく見えるBCPほど、この落とし穴が深い。見た目で安心してしまい、点検されないまま棚に戻るからです。

中身のあるBCPは、「事故がどう起こるか」から逆算する

では、盾になるBCPは何が違うのか。ひとことで言えば、事故の起こり方から逆算して作られている、という点です。

私がBCPを作る時の出発点は、きれいな目次ではありません。「この工場で、いちばん起こりやすい止まり方は何か」を、現場の実態から一つずつ潰していくことです。危険物の保管状況、設備の老朽度、人の配置、季節変動——査察で「ここが危ない」と見てきた着眼点を、そのまま自社の弱点探しに使う。

そうやって作ったBCPには、抽象論が入りません。「関係各所に連絡」ではなく、誰が・誰に・何分以内に・どの順で連絡するか。「代替生産」ではなく、どの設備が止まったら、どこに、いくらで振り替えるか。当日に、現場の担当者が開いてそのまま動ける粒度まで落ちている。これが「盾」です。

同じ「100万円のBCP」でも、紙くずと盾で価値が桁違いになるのは、この差です。そしてこの差は、残念ながら買う側からは見た目で区別しにくい。だからこそ、中身で選んでいただく必要があります。

「使えないBCP」は、経営にいくらの穴を開けるか

ここからは経営の話に翻訳します。使えないBCPの本当の怖さは、「100万円が無駄になった」ことではありません。いざという時に会社が止まり、その損失をまるごと被ることです。

工場が操業を止めると、失われるのは大きく次の4つです(金額はあくまで試算・目安として、自社の数字で置き換えてください)。

  1. 止まっている間の粗利(1日あたりの利益 × 停止日数)
  2. 復旧にかかる費用(設備・清掃・人件費・応急対応)
  3. 取引先の信用と、そこから逃げる将来の受注(これがいちばん長く尾を引く)
  4. 場合によっては、行政対応や報告の負担

紙くずのBCPは、この停止日数を1日も縮めてくれません。逆に、中身のあるBCPは「どの順で何を復旧するか」が決まっているぶん、止まる時間そのものを短くします。BCPの価値は、この“止まる時間をどれだけ縮められるか”で測るのが正しい。分厚さでも、金額でもありません。

儲かっている工場ほど、1日止まった時の損失は大きくなります。だからこそ、中規模以上の工場ほど、「作ったつもり」のBCPを放置するリスクが重いのです。

その投資は、税制と補助金で軽くできる

「中身のあるBCPは、それなりにお金がかかるのでは」——そのとおりです。ただ、その投資は制度で軽くできる場合があります。

BCPと親和性の高い制度に、国の「事業継続力強化計画」の認定があります。認定を受けると、防災・減災設備の税制優遇や、補助金審査での加点、低利融資といった後押しが受けられる場合があります。「罰則を避けるための出費」ではなく、「戻ってくる投資」に変わるわけです。ただし制度の要件・対象・期限は改正で動きます。数字は本記事では断定せず、最新の内容は必ず確認してください。制度の使い方は、こちらの記事(工場の防災投資を事業継続力強化計画で軽くする方法)で詳しく解説しています。

ここで一つ、正直にお伝えします。この認定で本当に価値が出るのは、中身のあるBCPが土台にある時だけです。紙くずのBCPで認定だけ取っても、いざという時に会社は守れません。制度は、あくまで“実のある備え”を軽くするための道具です。

まず、自社のBCPが「使えるか」を3つの問いで点検する

長い話をしましたが、今日できることは一つです。手元のBCP(無ければ、業者から出てきた見積書やサンプル)を開いて、次の3つを自問してみてください。

  1. 当日、現場の担当者がこれを開いて、そのまま動けるか。「連絡する」「確保する」で止まっていないか
  2. 自社の“止まり方”が具体的に書いてあるか。どの設備・どの工程・どの時間帯かまで踏み込んでいるか
  3. 止まる時間を、実際に何日縮められる計画になっているか。

一つでも「あやしい」と思ったら、そのBCPは点検が必要です。「うちのは大丈夫か分からない」という段階で、まったく構いません。

Fire Risk Managementでは、査察5,000件超で培った「事故がどう起こるか」の視点から、中身のある――いざという時に本当に会社を守るBCPの策定と、既存BCPの点検・作り直しをお手伝いしています。事業継続力強化計画の認定申請(行政書士業務)まで、切らずに一本でお引き受けできます。まずは今のBCPを一緒に見直すところから、無料相談をご利用ください。全国どこでも、オンラインで対応しています。

分厚いだけのBCPを、会社を守る盾に変える。その第一歩を、ご一緒させてください。

── 運営者 ──

Fire Risk Management(ファイヤーリスクマネジメント|略称 FRM)

代表 松永浩行/消防行政約30年・立入検査の実務/行政書士/経営大学院(MBA)在籍

工場・危険物施設の防災を、経営の武器に変える防災コンサルティングです。防災経営診断・BCP策定支援・消防の届出代行・防災経営顧問まで、全国オンラインで対応しています。

業務内容 ▶ ご相談・無料相談

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