指定数量は、足し算で動く――「今いくつか」を言えない工場が、いちばん危ない

皆さん、こんにちは。Fire Risk Managementの松永浩行です。

査察で工場に入って、危険物を扱っている現場の担当者に、私はよくひとつ質問をしていました。「今、指定数量の何倍ありますか?」——これに即答できる会社は、正直、そう多くありません。

以前、「危険物の指定数量、ここで会社は止まる」という話をしました。指定数量を超えると「許可」の世界に入り、届出とは重みが違う、と。今日はその続きで、いちばん厄介なところ——指定数量は「一度測って終わり」の固定値ではなく、在庫と一緒に毎日動いている、という話をします。

目次

指定数量は「足し算」で決まる

まず、多くの経営者が誤解している点から。指定数量は、油や薬品の種類ごとに違います。同じ量でも、品目が変われば「何倍にあたるか」が変わる。

そして厄介なのが、複数の種類を置いている場合、それぞれの倍数を足し合わせて考えるということです。A品目で0.5倍、B品目で0.3倍、C品目で0.4倍——別々に見れば、どれも1倍未満で「うちは大丈夫」に見える。ところが足すと1.2倍。合算した瞬間に、規制の側へ入ってしまう。

(品目ごとの指定数量や、どこまでを同じ場所として合算するかは、消防法令や品目区分で細かく定められています。ここは数値を断定しません。実際の判定は、所轄消防への確認が必要です。)

現場を見てきた実感として、この「足し算」を分かっていない会社が、とても多い。1品目ずつしか見ていないんです。

在庫が動くから、見えなくなる

ここに、もうひとつ質の悪い要素が重なります。在庫は、毎日動く、ということです。

仕入れれば増える。使えば減る。季節によって多めに持つこともある。新しい薬剤を1種類増やしただけで、さっきの足し算の合計が変わる。つまり「今、何倍か」は、止まっている数字ではなく、常に揺れている数字なんです。

だから、許可を取ったとき、あるいは前回の棚卸しのときに「0.9倍で収まっている」と確認していても、それは”その日の数字”でしかありません。仕入れが重なった日、決算前にまとめ買いした日、現場判断で在庫を積み増した日——誰も気づかないうちに、1倍を超えていることがある。

私が現場でいちばん怖いと感じたのは、事故そのものより、「誰も今の数字を把握していない」状態でした。担当者は「だいたい大丈夫なはず」と言う。でも、その根拠は感覚です。これは、いつ超えてもおかしくない。

「知らずに超えていた」は、通用しない

ここが、経営の話につながります。

指定数量を超えれば、それは許可が要る世界です。許可を取らないまま超過した状態で操業していれば、形式的には無許可での貯蔵・取扱いにあたり得る。「知らなかった」「在庫がたまたま増えていただけ」は、残念ながら理由になりません。

立入検査でその場の在庫を確認され、合算したら超えていた——となれば、口頭指導では済まず、使用の停止といった処分に踏み込まれることもあり得ます。危険物は、行政が処分に躊躇しにくい分野です。

止まれば、1日あたりの利益がまるごと消えます。もし10日止まったら、利益・人件費・そのあいだも出ていく固定費で、いくら失うか。金額は業種と規模でまるで違うので断定はしませんが、一度ご自身の会社の数字で試算してみてください。「在庫管理を現場任せにしていたこと」が、その損失の入口だった——という順序を、経営者はあとから知ることになります。

管理は「仕組み」にするしかない

では、どうするか。答えは精神論ではありません。「気をつけろ」で防げるなら、とっくに防げています。

現実的なのは、こういう形です。扱っている品目ごとの倍数を一覧にして、合計が”今いくつ”かが一目で分かる状態を作る。仕入れ・使用で在庫を動かしたら、その数字が更新される。1倍に対して、余裕を持たせた社内の上限ライン(たとえば0.8倍などの目安)を先に引いておき、そこに近づいたら手を打つ。新しい薬剤を1種類増やすときは、増やす前に、合計への影響を確認する。

要は、“今の倍数”を、感覚ではなく数字で持つ、ということです。これができている会社と、現場の勘に任せている会社とでは、同じ在庫を持っていても、抱えているリスクの高さがまったく違います。

そして、この管理の設計と、危険物を扱う現場の実態を踏まえたBCP(事業継続計画)は、地続きです。今どれだけ持っていて、何が起きたら何倍になるのか——それが分かっていない計画は、いざというとき動きません。ひな形に数字を流し込んだだけの計画では、この足し算にはついていけないんです。

その一手間は、投資として軽くできる

最後に、経営判断として。こうした管理体制の整備や防災の備えは、「事業継続力強化計画」の認定などを通じて、税制や補助金・融資の面で後押しを受けられる道があります(制度の要件・数値・期限は変わり得るので、最新の内容は必ずご確認ください。申請先は行政です)。備えは、必ずしも純粋な持ち出しではありません。

Fire Risk Managementでは、かつて査察する側にいた視点で、御社が今、指定数量の何倍を持っているのか、そしてそれが日々どう動くのかを、一枚に整理するところからお手伝いしています。事故が起きてからでは、この数字は間に合いません。まずは「今の数字」を掴むところから、ご一緒に始めませんか。

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