「届出」と「許可」――経営者が誤解している、決定的な違い

皆さん、こんにちは。Fire Risk Managementの松永浩行です。

査察や相談で経営者の方とお話ししていると、ある一言をよく聞きます。「うちは、届出は出してありますから」。そう言って、話が終わってしまう。

言われた側の私は、内心ひやっとすることがあります。なぜなら、その会社が本当に気にすべきだったのは「届出」ではなく「許可」だった、というケースが少なくないからです。今日は、この二つの違いの話をします。地味に見えて、ここを取り違えると、会社は止まります。

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同じ「役所に紙を出す」でも、中身がまるで違う

「届出」も「許可」も、経営者から見れば同じに見えます。どちらも役所に書類を出す手続き。名前も似ている。だから、つい一緒くたにされます。

ですが、この二つは性質がまったく違います。

ざっくり言うと、こうです。「届出」は、こちらから「こうします」と知らせる手続き。「許可」は、役所に「やってよい」と認めてもらってはじめて始められる手続きです。届出は出せば原則それで進みますが、許可は認められなければ、そもそもその状態で操業してはいけない。出発点からして重みが違うんです。

危険物でいえば、大まかな整理はこうなります。ある量(指定数量)以上の危険物を貯蔵・取扱いする場合は、消防法に基づく「許可」の世界に入ります。一方、その量に満たないものでも、一定以上を扱えば、市町村の火災予防条例に基づいて「届出」などが求められることがあります。根拠になる法令からして別物なんです。

(ただし、どの量から許可が要るのか、どの範囲が届出で足りるのかは、扱う品目や自治体の条例によって変わります。ここは断定できません。ご自身の会社がどちらに当たるかは、必ず所轄の消防に確認してください。)

破ったときに「来るもの」が違う

では、なぜこの区別がそんなに大事なのか。破ったときに来るものが、まるで違うからです。

届出の世界は、比較的やり直しがききます。出し忘れていたなら、出せばいい。指導を受けて是正する、という流れになりやすい。

ところが許可の世界は、そうはいきません。許可というのは、「役所がその状態を認めている」という前提の上に操業が成り立っている、ということです。その前提が崩れたと判断されれば――たとえば許可を受けずに指定数量以上を扱っていた、あるいは許可された中身と実態がずれていた――使用の停止といった行政処分に踏み込まれ得ます。

私の現役時代の実感として、危険物の許可は、消防の中でも数少ない「許可」制度でした。だからこそ行政の側も、処分に対して躊躇が少ない領域です。届出のものを「指導で様子を見る」のとは、明らかに空気が違いました。立入検査で危険物施設に入るときの、あの張り詰めた感じ。あれは、背後に「止められる」という強制力があるからなんです。

本当に怖いのは、知らないうちに「許可の側」に入っていること

ここまで読んで、「うちはちゃんと許可を取っているから大丈夫」と思われた方もいるでしょう。問題は、そう思っている会社ばかりではない、という点です。

いちばん危ないのは、自分では届出の世界にいるつもりで、実は許可の世界に足を踏み入れているケースです。

危険物の量は、日々動きます。在庫が増える、扱う品目が増える、複数の種類が積み上がって合計が膨らむ。気づいたら、以前は届出で足りていた量を超えていた――ということが、現場では起こります。経営者は「昔、届出を出したまま」のつもりでいる。でも実態は、とっくに許可が要る側に移っていた。

この「ずれ」は、平常時には表に出ません。表に出るのは、たいてい何か起きたとき、あるいは立入検査のときです。そのとき初めて、「これは許可が要る量ですよ」と指摘される。そこから話は、指導では済まなくなっていきます。

これは法令の話ではなく、操業が止まるかどうかの話

ここを、ぜひ経営の言葉に翻訳してください。

届出か許可か、というのは、役所の手続きの分類の話に聞こえます。ですが経営者にとっての本当の意味は、「万一のとき、行政に操業を止められる立場にあるかどうか」です。

操業が止まれば、その日の利益はまるごと消えます。数日か、数週間か。復旧の費用もかかる。取引先には説明しなければならない。儲かっている工場ほど、止まった1日は高くつきます。一度、ご自身の会社で試算してみてください。「操業が10日止まったら、利益・人件費・取引先への影響で、いくら失うか」。その額と、今きちんと整理しておく手間とを、並べて見てほしいんです。

しかも、この整理は、後ろ向きの「罰則回避」で終わる話ではありません。自社の危険物の状態を正しく把握し、必要な許可・届出を筋の通った形に整えることは、そのままBCP(事業継続計画)の土台になります。整えた体制は、国の「事業継続力強化計画」の認定などを通じて、税制の措置や補助金審査での加点といった、投資が軽くなる道につながっていくこともあります(制度の要件や数値は変わり得るので、最新の内容は必ずご確認ください。申請先は行政です)。守りのための整理が、攻めの武器に変わるわけです。

まず、「自社がどちらの側にいるか」を一枚に

長くやってきて思うのは、この届出と許可の取り違えは、経営者の怠慢ではない、ということです。手続きの名前が似ていて、量が日々動いて、しかも平常時は問題が表に出ない。構造的に、ずれに気づきにくいんです。

だからこそ、一度立ち止まって確かめる価値があります。自社が今、届出の側にいるのか、許可の側にいるのか。許可が要る量に近づいていないか。許可の中身と実態はずれていないか。

Fire Risk Managementでは、かつて査察する側にいた視点から、御社の危険物が今どちらの世界にあるのかを、一枚に整理するところからお手伝いしています。「届出は出してあります」で終わらせず、その一歩先を一緒に確かめる。まずは現状の棚卸しから、始めてみませんか。

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