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皆さん、こんにちは。Fire Risk Management(ファイヤーリスクマネジメント)の松永浩行です。
「うちの工場が1日止まったら、いくら損しますか」
この質問に、その場で数字で答えられる経営者は多くありません。設備の値段や保険料はすぐ出てくるのに、「止まったときの損失」だけは、なぜか誰も数えていない。防災の投資判断が進まない理由は、たいていここにあります。比べる相手の数字が無いから、対策の費用が「高い」としか見えないのです。
今日は、操業停止の損失を、経営者がご自身で概算するための3つの数字をお伝えします。特別な計算は要りません。決算書と現場の感覚があれば、30分で出せます。
防災の相談を受けるとき、私は対策の話より先に、この数字をうかがいます。理由は単純で、この数字が出ていない会社では、どんな対策も「余計な出費」にしか見えないからです。
逆に、1日止まると300万円失うと分かっている会社では、判断が変わります。100万円の是正工事は「100万円の出費」ではなく、「止まるリスクを下げるための投資」になる。同じ工事でも、経営者の目に映る姿がまったく違ってきます。
防災を経営の武器にするというのは、精神論ではありません。損失を数字にして、投資と並べて比べられる状態にすることです。その第一歩が、この3つの数字です。
まず、止まったときに「入ってこなくなるお金」を出します。売上ではありません。売上には材料費が含まれているので、そのまま使うと損失を大きく見積もりすぎます。
使うのは限界利益(売上高 − 変動費)です。変動費は、材料費や外注費のように、作らなければ出ていかない費用のこと。
1日あたりの限界利益 =(年間売上高 − 年間変動費)÷ 年間稼働日数
年商5億円、変動費率60%、稼働日数240日の工場なら、(5億 − 3億) ÷ 240日 で、1日あたり約83万円。これが、操業が止まった日に消えていく利益です。
ここで大事なのは、桁が合っていれば十分だということ。1円単位の精度は要りません。経営判断に必要なのは「1日あたり数十万円なのか、数百万円なのか」という規模感です。
次に、「何日止まるのか」です。多くの経営者は、ここで火災や地震を思い浮かべます。もちろんそれもありますが、現場を30年見てきた立場から申し上げると、操業が止まる原因はもっと手前にもあります。
消防法には、二段構えの仕組みがあります。
まず第5条。消防長または消防署長は、建物の位置・構造・設備・管理の状況について、火災の予防に危険だと認める場合、消火や避難の活動に支障になると認める場合、火災が起きたら人命に危険だと認める場合などに、権原を有する関係者に対して、改修・移転・除去・工事の停止といった必要な措置を命ずることができると定められています。
そして第5条の2。第5条などの命令を受けたにもかかわらず、その措置が履行されない、履行されても十分でない、期限までに完了する見込みがない――そうした状態が続き、なお危険であると認められる場合には、その建物の使用の禁止・停止・制限を命ずることができるとされています。
つまり、いきなり止められるのではありません。 指摘があり、命令があり、それでも直らないときに、使用停止という段階に進む。止まる会社は、止まる前に何度も止まらずに済む機会があったというのが、実際のところです。この流れと、どの段階で手を打てば止まらずに済むのかは「消防法違反で「営業停止」になる前に|査察官が見る”危ない放置”と是正の順番」で詳しく書いています。
さらに、第5条の2による命令が出された場合、第5条第3項・第4項が準用され、標識の設置その他の方法でその旨が公示されます。 建物の前に標識が立つということが何を意味するか、取引先を持つ経営者であれば説明は要らないと思います。
日数の見積もりは、次のように分けて考えると現実的です。
3つ目を忘れないでください。設備が動いた日が、売上が戻った日ではありません。
3つ目は、稼働がゼロでも支払いが続くお金です。
損失は「入ってこない利益」と「出ていく固定費」の両方で発生します。 片方だけ数えると、実際の資金繰りへの打撃を半分に見誤ります。
3つの数字がそろったら、こう組み立てます。
操業停止による損失額 =(1日あたりの限界利益 + 1日あたりの固定費)× 止まる日数
先ほどの工場で、1日あたりの固定費が40万円、止まる日数を10日と見積もれば、(83万 + 40万) × 10日 でおよそ1,230万円。これが、1回止まったときの目安です。
もちろん、これは試算です。業種・規模・在庫の持ち方によって大きく変わりますから、実際の数字はご自身の決算書で確認してください。それでも、「なんとなく不安」が「約1,200万円のリスク」に変わるだけで、経営会議の議論は変わります。
さらに一歩進めるなら、発生する確率を掛けます。
期待損失 = 損失額 × 発生する確率
10年に1回起こりうると考えるなら、年あたり約120万円のリスクを抱えている計算になります。年間120万円の見えないコストを、いくらの対策で下げられるか――ここまで来て、はじめて投資判断の土俵に乗ります。
「保険に入っているから大丈夫」というお話も、よくうかがいます。
火災保険や利益保険は、確かに強い備えです。ただ、保険金で戻るのはお金であって、時間と信用は戻りません。
このあたりは、保険証券には書かれていません。保険はリスクの移転、防災はリスクの低減で、役割が違います。両方を、それぞれいくら分持つのかを決めるのが経営判断です。
損失の数字が出ると、次は「では、いくらかけるか」になります。ここで押さえておいていただきたいのは、防災投資は制度で軽くできるということです。
事業継続力強化計画の認定を受けると、防災・減災設備の税制措置、補助金の加点、金融支援といった後押しを受けられる道が開けます。詳しくは「工場の防災投資は「事業継続力強化計画」で軽くなる|補助金・税制の使い方」で解説しています。
「損失はいくらか」と「投資はいくら軽くなるか」。この2つの数字がそろえば、防災は経営判断になります。 危ないから直す、ではなく、割に合うから直す。そこまで持っていくのが、私の仕事です。
まずは30分、決算書を開いて①と③を出してみてください。②の日数は、正確でなくて構いません。「たぶん1週間から2週間」でも、議論を始めるには十分です。
そのうえで、こう考えてみてください。その日数の間、会社の資金は持ちますか。
もし、その計算の途中で手が止まったら――変動費と固定費の切り分けで迷ったり、そもそも自社が消防法上どういう状態にあるか分からなかったりしたら、その段階でご相談ください。
Fire Risk Managementでは、防災経営診断として、元消防局予防課の目で現地を調査し、消防法令への適合状況と、被災した場合の想定損失額を算出したうえで、経営者向けの報告会までを行っています。「どこにいくらのリスクがあり、どこから手を付けると割に合うか」を、数字でお示しします。サービスの内容と料金の考え方は報酬のご案内をご覧ください。
ご相談はお問い合わせフォームから。オンラインで全国対応しています。「まだ何も決まっていない」「まず1日いくら損するのかだけ知りたい」という段階で、まったく構いません。数える作業から、一緒にやりましょう。
なお、法令の適用や命令の要否は、建物の用途・規模・実際の状況によって判断が変わります。個別の判断は、所轄の消防本部への確認が必要です。当方でご依頼をお受けした場合は、所轄への確認まで引き取って進めます。
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Fire Risk Management(ファイヤーリスクマネジメント|略称 FRM)
代表 松永浩行/消防行政約30年・立入検査の実務/行政書士/経営大学院(MBA)在籍
工場・危険物施設の防災を、経営の武器に変える防災コンサルティングです。防災経営診断・BCP策定支援・消防の届出代行・防災経営顧問まで、全国オンラインで対応しています。
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